「匙を投げる」の意味とは?読み方、類語や使い方、英語を紹介!
現代では、古くからある言葉がもとの意味から転じて広がった言葉や、誤用が広がるうちに誤った意味の方が正しいとされるように変化した言葉などが存在しています。
今回ご紹介する言葉も、もともとの意味を理解して使っている人は少ないのではないでしょうか。
語源や例文をもとに正しく理解し、使う場面を間違えないよう注意しましょう。

目次
- 「匙を投げる」の意味とは?
- 「匙を投げる」の類語
- 「匙を投げる」の使い方
- 「匙を投げる」の英語
- 「匙を投げる」の対義語や似た反対語
- 「匙を投げる」を分解して解釈
「匙を投げる」の意味とは?

この言葉には2つ意味があります。
まず1つ目は、「医者が、これ以上手立てがなく病人を見放す」という意味です。
語源とも深く関わっている本来の意味です。
2つ目はこの1つ目の意味が転じて、一般的に「見込みがないと判断し物事を諦める」という意味で、医療以外のことに対しても使われています。
- 「匙を投げる」の語源
- 「匙を投げる」の読み
「匙を投げる」の語源
漢字から場面を想像しやすい言葉ですが、その語源は、医者や漢方医が薬を調合するのに匙を使っていたことに関連しています。
その昔薬の調合を行っていた医者が、どう手を施しても救いようのない患者と接するうちに治療や薬の調合を諦めてしまい仕事道具の匙を投げ出す、つまり役割を放棄してしまった様子から生まれました。
病気を治療してほしい患者としては診察や調合に頼るほかありませんが、それができる唯一の存在である医者が見放してしまうのです。
どこの誰にもどうすることもできない、というお手上げの状態です。
そこから、医療行為上で手の施しようがなく治療を諦めることを「匙を投げる」と表現するようになりましたが、転じて「努力しても成功や解決する見込みがなく諦める」という意味でも使われるようになりました。
「匙を投げる」の読み
「さじをなげる」と読みます。
「匙」は「しゃじ」とも読めますが、一般的には「さじをなげる」で定着していますので、誤った読み方をしないよう気をつけましょう。
他にも、「投げる」を「捨てる」と誤用する例も見られます。
必ず「匙を投げる」とセットで覚えておきましょう。
「匙を投げる」の類語

「匙を投げる」というのは、医者が治る見込みがないと治療に見切りをつける事、もしくはどう努力しても解決や成功する見込みがなく諦める事とは理解いただけたでしょうか。
そのポイントを押さえて、類語も見ていきましょう。
- 「万策尽きる」【ばんさくつきる】
- 「途方に暮れる」【とほうにくれる】
- 「歯が立たない」【はがたたない】
「万策尽きる」【ばんさくつきる】
万策(ばんさく)とはありとあらゆる策や方法・手段を表しており、それが尽きてしまっても解決や成功に至れない状態になったという意味です。
つまり、どうしようもない状態ということです。
「匙を投げる」と同じで、これ以上手立てがなく、前途が絶たれることを表します。
百や千ではなく「万」ですから、相当な数の策や手段をもってしても無理であるというのがうかがえる言葉です。
「途方に暮れる」【とほうにくれる】
この言葉は日常生活で使う方も多いのではないでしょうか。
手段や方法が尽きてしまいどうすればよいかわからなくなってしまう状態を指します。
「途方」というのは手段や手立てを意味する言葉です。
「暮れる」というのは日が落ちたりすること以外にも、見通しが立たない状態を表す際にも使います。
つまり、「手段が尽きて見通しが立たなくなり、自分がどうすればよいかわからない状態」を表現しています。
「歯が立たない」【はがたたない】
もちろん文字通り、硬くて噛むことができない状態を表す言葉ですが、「自分の技量や力が相手に全く及ばない」ことを喩える言葉でもあります。
力が及ばず対抗できない様や、知識が足りず理解できない様を表現することができます。
「匙を投げる」は主に諦めてしまうことを指すため全く同じ意味というわけではありませんが、「自分が今もっている力や技量では取り組めない」という諦めの姿勢を表す類義語と言えます。
「匙を投げる」の使い方

そのまま医療に関することでも、医療に関連しない日常生活においても、前途が見込めず苦しい状況を表現することができます。
実際に例文を見てみましょう。
- 「匙を投げる」の例文1
- 「匙を投げる」の例文2
「匙を投げる」の例文1
「彼が抱える難病には、有名医大の医師でも匙を投げた」
語源そのままの通りの例文です。
病気や患者に対し、医師が持てるすべての知識や技能でもどうにもならない状態であり、治療を放棄したことを表現しています。
ただし、患者本人の目の前で医者が告知するときに使うような言葉ではありません。
医者が諦めてしまう場面を客観的に表現する際に使える言葉として頭に入れておきましょう。
「匙を投げる」の例文2
「何を言っても耳を貸さない彼。説得し続けてきた私もさすがに匙を投げた」
諦めてしまうことをそのまま、「諦めた」と表現してもいいのですが、「匙を投げた」という言葉を活用することで「どうしようもできない」というお手上げの状態がよく伝わり、表現に深みを出すことができます。
また、「諦める」という表現よりもさらに「放棄した」という意味合いを強く表せます。
「匙を投げる」の英語

日本語で「匙を投げる」なら英語ではスプーンを投げると表現しそうな気もしますが、厳密にはそういった英語表現はありません。
近いニュアンスの表現を紹介します。
“throw in the towel”
“throw”は「投げる」、“towel”はタオルという意味です。
ボクシングの試合などで、セコンドがタオルを投げ込むシーンを見たことはありませんか?
リング上で行う格闘技やスポーツでは、「タオルが投げられる=降参、敗北」を意味します。
セコンドとは、試合中の選手の介添人として、アドバイスや傷の手当だけでなく、選手の命に関わる危険な状態だと判断すれば棄権を合図する役でもあります。
医者が「匙を投げる」ように、セコンドがタオルを投げるということは、専門家ですら諦めざるを得ない状況という事。
そこから、日本語の「匙を投げる」というように諦めることやお手上げの状態を表す英語表現として使われています。
「匙を投げる」の対義語や似た反対語

「匙を投げる」をそのまま反対にした慣用句やたとえというのは存在しません。
「諦める」という意味の逆となるわけですから、反対語や対義語を挙げるとすると以下のようになります。
- 「投げ出さない」【なげださない】
- 「活路を見出す」【かつろをみいだす】
「投げ出さない」【なげださない】
匙は入っていませんが、「投げる」という表現を使った言葉です。
それまでやっていたこと、継続していたことを完了する前に途中で放棄すること、諦めて中断してしまうことを「投げ出す」と表現します。
つまり「投げ出さない」とは、途中で放棄しないようにする、という意味です。
「匙を投げない」という表現は正しい表現とは言えません。
しかし「投げ出さない」ならば、同じ「投げる」という言葉を使って諦めない姿勢を表すことができる正しい表現です。
「活路を見出す」【かつろをみいだす】
「匙を投げる」とは、専門家である医者も治療を諦めてしまうほど、手立てがない状態で放棄することだと説明しました。
しかし「活路を見出す」は全く逆の言葉です。
「困難な状況から逃れるための方法や道を見つけ出す」ということを意味します。
諦めることをせずさらに手立てを見つけようとする姿勢は、反対の表現と言えるでしょう。
「匙を投げる」を分解して解釈

「匙を投げる」とは「匙」と「投げる」という二つの語句から成り立っています。
それぞれ分けて考えると理解が容易になります。
- 「匙」
- 「投げる」
「匙」
「匙」とは粉末や液体をすくう為の道具です。
調理する際の調味料を量る目安として「大さじ3杯」などと表現するときに単位としても使います。
スプーンだというイメージが定着しており、匙のことをスプーンとも呼ぶことは多々あります。
その昔は、薬を調合するときに医者が使う道具でもありました。
「匙」が現代でのスプーンでもあることから、この言葉を「スプーンを投げる」と誤用する方もいますが間違いですので、誤用しないよう注意しましょう。
「投げる」
「投げる」とは、「手から勢いよく空中へ放る、飛ばす」や「捨てる」という意味の動詞です。
物に対して使うことがほとんどですが、事に対しても「諦める」という意味で「投げ出す」という表現に使われることもあります。
物を投げる表現としても、「投げつける」「放り投げる」など、荒いイメージがつきやすい言葉です。
今回の「匙を投げる」のように、言葉の成り立ちや由来を見てみると古くから私たちの生活に深く根付いている言葉だということがよくわかります。
昔の人から受け継がれてきた動作や表現がそのまま比喩表現として現代でも使われているのは、とても貴重なことでもあります。
その文化や教えを正しく後世にも残したいものです。