「袂を分かつ」の意味とは?類語、使い方や例文を紹介!
最近はなんでもヤバイで済まされたり、略しことばで通じてしまう世の中です。
ことばというものは水物で、ずっと同じかたちを保ちつづけるというよりはやはり、時代に即して変化していくものではありますが、日本古来からの美しいことば、というものは、いつまでも残しておきたいという気にもなりますね。
ここではそんなことばの一つ、「袂を分かつ」についてご説明します。
目次
- 「袂を分かつ」の意味とは?
- 「袂を分かつ」を分解して解釈
- 「袂を分かつ」の語源
- 「袂を分かつ」に似たことばや類語・言い換え
- 「袂を分かつ」の使い方
- 「袂を分かつ」を使った例文
- 「袂を分かつ」の対義語
「袂を分かつ」の意味とは?
「袂を分かつ」は、「たもとをわかつ」と読みます。
行動をともにしていた人との別れや離別、人との関係を断つことを意味することばです。
別れというとすぐに男女間の別れを思い浮かべがちですが、意味からして、そういうわけではなさそうですね。
「袂を分かつ」を分解して解釈
「袂」という、着物についての知識に長けていない現代人にはわかりにくい語が含まれるため、意味や読みがわかっても、なかなかはっきりとしません。
そういうことばは、成り立たせている要素を分解することで、かえって理解が深まるということがあります。
ここでも、「袂を分かつ」を、「袂」と「分かつ」に分けて考えていきます。
- 「袂」
- 「分かつ」
「袂」
「袂」とは、
- 和服の袖付けの下の、袋のよう垂れ下がっている部分。
- そば、きわ。
- すそ、ふもと。
- 肩から肘までの部分。
などの意味があります。
そもそも「袂」は「手本(たもと)」から来ており、「手のそば、手の近く」といった意味に通じています。
「分かつ」
「分かつ」は古文単語の終止形の活用になっています。
「分かつ」は、人との別れを意味しています。
現代では「分ける」になるでしょうか。
分けるとは、離れることを意味します。
ここまででも、そばにあったものとの別れ、という意味が、「袂を分かつ」ということばになるのだと推察できます。
「袂を分かつ」の語源
その昔、日本では、「袂」には人の魂が宿るのだといわれていました。
今ではほとんど成人式や結婚式でしか見られなくなった振り袖ですが、昔はこの袖を振ることで、魂を呼び寄せることができたといいます。
また、左右に振ると好き、前後に振ると嫌いを示すというので、現在でも「振った」「振られた」といいますが、これはここから来ていることばなのです。
道理ですが、結婚すれば袖を振る必要がなくなります。
実家を出るという肉体的な別れと、一人前の大人として、新しい家族と家をつくっていくという意味での精神的な別れとが同時にやってきます。
こうして育ての親と離れることを、「袂を分かつ」というようになりました。
行動をともにしてきた人と、考えや方向性のちがいから別れる、という意味になったのは後のことです。
「袂を分かつ」に似たことばや類語・言い換え
語源を聞くとなるほど、と思うことばではありますが、現代では自分が知っていても、相手が意味を知らない、なんてことにもなりかねません。
ほかに似たことばや言い換えのきくことばを紹介していきますね。
いろんなことばのバリエーションを持っているほうが、豊かな会話や表現ができるでしょう。
- 「縁を切る」【えんをきる】
- 「手を切る」【てをきる】
「縁を切る」【えんをきる】
「縁を切る」は、関係を解消することを意味し、「えん(を)き(る)」と読みます。
夫婦や親など、つながりの深い人との場合にも使われますし、人以外のものごとに対しても使われます。
「袂を分かつ」は、人と人とのつながりについて、別れを表すことばでしたので、「縁を切る」のほうが、よりさまざまな場面で使うことのできる、便利なことばかもしれませんね。
「勢いで妻を殴ったことは後悔してもしかたのないことだが、あれから酒とは縁を切っている」
このように、人との縁だけでなく、自分とゆかりのあったものに対しても、縁を切ることができます。
「手を切る」【てをきる】
こちらも関係を断つことを意味することばです。
特に、悪い影響を及ぼす関係や、男女関係について使われます。
関係を解消するために支払うお金のことを、「手切れ金」といったりしますね。
「以前からきな臭いと思っていたが、どうも裏でヤクザとつながっているらしいとわかったので、あの業者とは手を切ることにした」
縁を切る、という意味でも使えますが、「手」を使ったことばというのは、人対人に使われることが多いでしょう。
「袂を分かつ」の使い方
「袂を分かつ」は、それまで非常に縁のあった人との別れを意味する時に使われます。
これは、一時的な仲違いなどでなく、もう二度と復縁することのない別れのことをいいます。
「手を切る」と同様、主に人対人に使われることばですので、「酒と縁を切る」の言い換えには向きません。
また、「袂を分かつ」の過去・完了形は、「袂を分かった」となりますが、これではわかる、わからないのわかった、ととられてしまいがちです。
「袂を分かつこととなった」など、工夫が必要でしょう。
「袂を分かつ」を使った例文
いくら説明されても、古典的なことばと、着物の袂というぼんやりとしかわからないものが出てくるから使いこなせない、という方もいらっしゃるでしょう。
聞き慣れないことばを、それ単体でわかろうとするのはなかなか苦しいものです。
例文を挙げていきますので、そのなかでどのように「袂を分かつ」が使われているのかを知り、応用していってください。
- 「袂を分かつ」の例文1
- 「袂を分かつ」の例文2
- 「袂を分かつ」の例文3
「袂を分かつ」の例文1
「たしかにこの数年間、会話という会話をする時間もなかったように思う。だけどどこかで私は、妻と愛しあって結婚したのだと過信していた。忙しさのなかですれ違いがあったことが原因だが、今日を限りで袂を分かつことになるとは思わなかった」
この夫婦は今日を限りに、婚姻関係を解消することがわかります。
それまでつながりの深かった人であればあるほど、その「袂を分かつ」というのは、断腸の思いがあります。
それでも、長い人生のなかに、そのような別れは一つや二つ、経験することも、あるのかもしれません。
そのなかで自分がなにを学ぶのか、が重要なのでしょう。
「袂を分かつ」の例文2
「いいビジネスパートナーだとばかり思っていたのに、下心があるなんて思っていなかった。想定外だったこともあり、彼とは醜い言い争いになり、とうとう袂を分かつ結果になってしまった」
男女間ではありうる話ですね。
人には踏み込んではいけない聖域のようなものがありますが、そこに土足で踏み入られたとき、それまでどんなに魅力的だった人とも、関係を解消せざるをえないときがあります。
友人だと思っていた男性から告白され、友人でありつづけることもむずかしくなり、連絡を断つ、なんていうことは、実際日常で起こっていることですね。
「袂を分かつ」の例文3
「若い時分、それなりに悪事を働いてきたが、彼女に子どもができたとき、一番に浮かんだことは、あいつと袂を分かつことだった」
「袂を分かつ」ということば自体には、「手を切る」のように、もともとネガティブな関係、という意味は含まれません。
かといって、かならずポジティブな関係だけではないのが人間です。
このように、昔は仲がよかったのだが、関係性、方向性が変わってしまった人間関係の解消に使うことができます。
「袂を分かつ」の対義語
「袂を分かつ」は関係を断つことですから、対義語というと、関係が成立することや、断たれていた関係が元に戻ることを意味することばになります。
結ばれる、や出会い、も含まれるでしょう。
基本的に別れというのは、悲しみなどネガティブな感情を伴うものとされ、忌避される傾向がありますので、対義語となることばのほうが、たくさんあるのではないかと思います。
- 「復縁」【ふくえん】
「復縁」【ふくえん】
離縁していた人同士が、もとの関係にもどることを表します。
離婚した夫婦が、もう一度やり直す、別れたカップルがまた交際をはじめる、というような場合に使われることが多いですね。
「復縁」は、一度関係が破られ、それを修復する、という作業のうえに成り立っています。
傍目にはもとにもどる、ということばで片付けられてしまいがちですが、二人の間には、大きな裂け目を縫いなおした、という強固な絆がある、ということが、ただの出会いではなく、出会いなおす、ということの大きな意味だといえるでしょう。
「袂を分かつ」は、関係を断つことだとわかりました。
語源からもわかるように、美しい日本語ではありますが、つながりの濃い人との別れに使われることばですから、デリケートなことばともいえます。
それでも、結婚する友人などに、晴れやかな気持ちで新しい家族をつくっていってほしい、というときなど、門出のことばに添えても喜ばれるのではないでしょうか。