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「敵に塩を送る」の意味とは?類語、誤用や本当の事実、例文や英語を紹介!

「敵に塩を送る」という言葉を聞くとどのようなイメージが浮かぶでしょうか。

スポーツや何らかの試合、戦いの場面での一幕、という方が多いのではないでしょうか。

また歴史が好きな方であれば「ああ、あの上杉謙信と武田信玄の」といった語源とされる逸話が頭をよぎる方もいらっしゃるかもしれません。

今回はそんな「敵に塩を送る」という言葉の意味、言い換え、語源などについて学んでいきましょう。

敵に塩を送る

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「敵に塩を送る」の意味とは?類語、誤用や本当の事実、例文や英語を紹介!>


目次

  • 「敵に塩を送る」の意味とは?
  • 「敵に塩を送る」の類語や言い換え
  • 「敵に塩を送る」の心理
  • 「敵に塩を送る」を使った例文や使い方
  • 「敵に塩を送る」の誤用
  • 「敵に塩を送る」について解説
  • 「敵に塩を送る」の英語


「敵に塩を送る」の意味とは?

「敵に塩を送る」の意味とは?

「敵に塩を送る」は争っている相手が苦しんでいる時に、敵の弱みに付け込まずその苦境を助ける、救うという意味のある慣用句です。

この言葉は戦国時代、上杉謙信が宿敵である武田信玄が塩不足に困っていた時に塩を送りその窮地を助けた、という話から作られた言葉です。

この逸話については後述で詳しく解説します。



「敵に塩を送る」の類語や言い換え

「敵に塩を送る」の類語や言い換え

「敵に塩を送る」という言葉は「敵が窮地に追い込まれている時に相手を助ける」という稀有な状況から生まれた慣用句です。

そのため「敵に塩を送る」という言葉の類語、言い換えはあまり数多くはありません。

とは言っても一切類語、言い換えがない訳ではありません。

下記にいくつか例をあげさせていただきます。

  • 「相手を利する」【あいてをりする】
  • 「敵に味方する」【てきにみかたする】
  • 「ハンディキャップを与える」【はんでぃきゃっぷをあたえる】

「相手を利する」【あいてをりする】

「利する」という言葉には「利益がある」という意味があります。

また利益を与える、という意味も持っています。

そのため「相手を利する」「相手に利益を与える」という意味を持つ言葉になる訳ですね。

ただこの場合ですと敵に塩を送るのように相手が窮地の状態とは限りません。

相手が不利、窮地ではなく利益を与える、相手の得となる言動を起こす際には敵に塩を送るよりも「相手を利する」という言葉の方が相応しくなります。

また「相手」が敵や争い相手かどうかも定まっていないのでただ単に取引相手に利益を与えるなどの場面で用いることも可能です。

「敵に味方する」【てきにみかたする】

「敵に味方する」は争う相手を有利にするという意味を持ちます。

こちらも上記の「相手を利する」と同じように相手方が窮地に追い込まれていない場面でも使える言葉になります。

ただこちらは相手方を明確に「敵」と表現しています。

「敵に味方する」の方が「相手を利する」よりも敵に塩を送るに近い表現と言えます。

「ハンディキャップを与える」【はんでぃきゃっぷをあたえる】

「ハンディキャップを与える」は試合やゲームなどで競合者との力の差が明確な場合、弱者に有利な状況、もしくは強者に不利な状況をつくる、という意味を持ちます。

こちらはスポーツやゲームなどをプレイしている人であれば日常生活でもよく用いられる馴染みのある言葉ですね。

字面だけ見ると敵に塩を送るとは大分異なる印象を受けますが「敵の不利な状況をなくす」という意味では敵に塩を送ると大きな意味の差はありません。

敵に塩を送るにはわざわざ不利な状況を強者につくるという意味はないので、そこは似ている表現であっても大きく異なる点でしょう。

「敵に塩を送る」の心理

「敵に塩を送る」の心理

敵に塩を送るの意味や、言い換えについてはだいぶ分かってきたと思います。

では敵に塩を送る=敵の不利な状況、窮地に手助けする、というのは一体どのような心理で行われる行動なのでしょうか。

敵に塩を送る心理として1番多いのは「フェアプレイ精神から」ではないでしょうか。

敵に塩を送るの語源は宿敵の武田信玄が塩不足で苦しめられている際に上杉謙信が塩を送った逸話から生まれた慣用句だと冒頭で触れました。

この塩不足は今川氏と北条氏が結託し、武田信玄が治める甲斐に塩の配給を止めたことから起こりました。

要は上杉謙信と武田信玄の戦いとは直接関係のない場面で武田信玄が苦しめられている訳です。

現代風に言えばライバルとの戦いの場面で第三者の介入があり、それによってライバルが本来苦しまなくて良いことで苦しんでいる、とでもなるのでしょうか。

その第三者の介入から起きた苦境に手を差し伸べ、窮地を救い、公正な勝負を行う、このフェアプレイ精神が現代の敵に塩を送るの心理と言えるでしょう。



「敵に塩を送る」を使った例文や使い方

「敵に塩を送る」を使った例文や使い方

敵に塩を送るという言葉の心理について現代ではフェアプレイ精神から行われるものだ、と前項で記しました。

では敵に塩を送るという言葉は現代ではどのような場面で用いられることが多い言葉なのでしょうか。

例文と解説を下記に記しますのでよかったら参考までに見てみてください。

  • 「敵に塩を送る」の例文1
  • 「敵に塩を送る」の例文2
  • 「敵に塩を送る」の例文3

「敵に塩を送る」の例文1

「相手の弱みに付け込まず、敵に塩を送るということが時には必要な場合がある」

こちらでは相手の弱みにつけこまず、ということが述べられているのでより「敵の弱みに付け込まずその苦境を助ける」という部分が敵に塩を送るの語源とされる逸話に近い状況と言えるでしょう。

「敵に塩を送る」の例文2

「相手が勝負以外の場面で困っているようだったので敵に塩を送った」

こちらも適切に敵に塩を送るという言葉が使われています。

敵に塩を送るは本来の戦い、争い以外の場面で苦境に立たされている時に手助けをする、という意味を持ちます。

もし「相手が勝負で明らかに不利な状況であったため手助けをした」という時は敵に塩を送るではなく「ハンディキャップを与えた」という表現の方が適切だと言えます。

「敵に塩を送る」の例文3

「敵に塩を送ってもらうという形になってしまい情けない」

こちらは「敵に塩を送る」の塩を送ってもらった側の人物の例文です。

敵に塩を送るという慣用句は上記のように受け身としても使用することができます。

相手からの手助けを嬉々として受け取れない場合は「敵に塩を送られてしまうという形になってしまった」などと言い換えることも出来ます。

「敵に塩を送る」の誤用

「敵に塩を送る」の誤用

敵に塩を送るという言葉は古くからある慣用句ですが意外にも意味を勘違いして覚えてしまっていることが多い言葉でもあります。

敵に塩を送るは本来「争っている相手が窮地に追い込まれている時に弱みにつけこまず、助ける」という意味を持っているのですが「争っている相手を更に追い込む、追い詰める」と誤った意味で覚えてしまっている方もいるようです。

恐らく「敵」「塩」という言葉から「傷口に塩を塗る」=悪いことの上に更に災難が重なるという言葉を連想しているのだと考えられます。

ですが「傷口に塩を塗る」は敵に塩を送るとは真反対の意味を持つ言葉ですから間違えないように覚えておきたいですね。

「敵に塩を送る」について解説

「敵に塩を送る」について解説

敵に塩を送るの語源は何度か触れてきたように上杉謙信と武田信玄の逸話が元だと言われています。

時は戦国時代、今川氏と北条氏の結託により当時武田信玄が治めていた甲斐(現在の山梨県)に塩止めが行われました。

塩止めはその名の通り塩の配給をその土地には行わないということです。

もともと甲斐は周辺に海がないことから塩を確保するのが難しい土地柄でした。

海岸地域から塩を人馬にのせて甲斐まで運ばせたり、塩分が含まれる水を煮詰め塩を作るなどはしていましたがそれでも運び込まれる量も、採れる量も少なく、甲斐にとって塩は貴重なものでした。

そこに今川氏、北条氏の塩止めがあり、武田信玄をはじめとした甲斐の人々は深刻な塩不足に悩まされることになったのです。

そしてそれを見兼ねた上杉謙信が甲斐へ塩を送ったのが「敵に塩を送る」の語源とされているのです。

  • その時代の塩とは?
  • 「敵に塩を送る」の事実

その時代の塩とは?

戦国時代における塩の役目は調味だけではありません。

戦国時代において塩は保存料だったのです。

食べ物が腐る、悪くなる原因は食べ物が持つ水分にあります。

水分は食べ物の中にいる細菌や微生物増殖にはなくてはならないものです。

つまり水分が多い食品は細菌や微生物が増殖しやすく、悪くなりやすいという訳です。

ですが塩を食品に、かける、まぶすなどすると水分が食品から出ていき、その分食品は長期間の保存が可能になります。

冷蔵庫や合成保存料がない戦国時代において塩はそれらに変わる天然の保存料だったのです。

その塩が今川氏、北条氏から止められてしまった訳ですから当時の甲斐は単なる塩不足だけでなく兵糧不足ともなってしまい、いわば兵糧攻めのような状態に陥ってしまっていたのです。

「敵に塩を送る」の事実

「敵に塩を送る」が何故起こったのか、また当時の塩の役割についてここまでまとめてきましたがでは実際のところの上杉謙信は「敵に塩を送った」のでしょうか。

上杉謙信が本当に武田信玄が治める甲斐へ塩を送っていたかということについては謙信公御年譜を参照してみます。

謙信公御年譜によると「今川氏、北条氏が甲斐への塩止めを決め、上杉謙信にもそうするようにと頼んだが上杉謙信は首を縦には振らなかった。信玄とは弓矢で戦うと述べ、今まで通り甲斐に塩を送るようにと命じた」とあります。

ですが近年では謙信公御年譜の記述は誤りであるという説が有力視されており、実際に塩を送ってはいないのではないかとされています。

また実際に送っていたとしてもそれは商売であり、上杉謙信を語る上で使われる「義の人」とはかけ離れているのではないかともされています。

史実で確認されているのは甲斐に塩止めがあったということのみになります。

「敵に塩を送る」の英語

「敵に塩を送る」の英語

「敵に塩を送る」は英語では“show humanity even to one's enemy”となります。

単語はそれぞれ下記の意味を持ちます。

“show humanity”(人間らしさを見せる)“ even to”(=でさえ)“ one’s”(=その人)“ enemy”(=敵) ですので直訳すると「その人が敵であっても人間らしさを見せる」という意味を持ちます。

塩止めにより兵糧不足であった甲斐の人々へ塩を送るという行為は「人間らしさを見せる」と英語では表現されるようですね。

icon まとめ

以上が「敵に塩を送る」の意味、語源、逸話などについてをまとめた記事になります。

広く知られている「敵に塩を送る」という逸話ですが近年の研究では本当は送られていないのではという説が有力ということで少しがっかりした部分もあるかもしれませんね。

ただこういった慣用句が生まれるほどに上杉謙信が「義」を重んじていた人物であるということは変わらない事実と言えるでしょう。