「遅まきながら」の意味・類語・対義語【使い方や例文】
会議の席などで「遅まきながら、ご提案の背景について一言ご説明いたします」などという表現を耳にしたことはありませんか?
「遅まき…って、何を巻くんだろう?」なんて思ったことは?
実は別に何かを巻くわけではないんです。
社会人になれば、改まった席での発言の機会も増えます。
ふさわしい時に、ふさわしい文脈で使えたら素敵です。
ここではそんな人のために、「ちょっとオトナな言い回し」のひとつである「遅まきながら」の意味や使い方をご紹介いたします。
目次
- 「遅まきながら」の意味とは?
- 「遅まきながら」の語源や由来
- 「遅まきながら」の言葉の使い方
- 「遅まきながら」を使った例文・短文(解釈)
- 「遅まきながら」の英語と解釈
- 「遅まきながら」の類語や類義表現
「遅まきながら」の意味とは?
「遅まきながら」は「おそまきながら」と読みます。
「遅」という字は「早い」「遅い」の「遅い」です。
「まき」というと、つい「巻き」を思い浮かべるかもしれませんが、こちらは「蒔き」という漢字を使います。
これは「種を蒔(ま)く」というときに使う、「植物の種を畑などに蒔く」という意味の言葉です。
常用漢字ではないので、たいていはひらがなで「まく」と書きます。
「ながら」にはいろいろな意味がありますが、ここでは内容の矛盾するふたつのことがらをつなぐ意味として使われています。
「狭いながらも楽しい我が家」とか、「知っていながら教えようともしない」といった意味で使われる「ながら」です。
ここからもわかるように、「遅まきながら」とは、「するべき時より遅くなってしまいましたが」という意味になります。
「遅まきながら」の語源や由来
「蒔く」のところでも見てきたように、「遅まきながら」は本来、「遅蒔きながら」と書きます。
「遅蒔き」というのは、もともと「時期を遅らせて種を蒔くこと」という意味でした。
「早蒔きの麦」「遅蒔きの麦」というように、農家では通常の種まきの時期よりも、少し早めたり遅らせたりして麦をまくことがあります。
そのようなまき方を指す言葉から来ています。
そこから、種をまかない場合でも、一種の比喩表現として「本来の種まきの時期(実際には種まきではなく、別の何かを始めるべき時期)より遅れてしまっているけれども」という表現として、今日まで残っています。
「遅まきながら」の言葉の使い方
「遅まきながら」という表現を使うためには「遅くなってしまったけれども」、「それでも何かを始める」というふたつのことがらが必要です。
たとえば「今、話題の映画をまだ観ていなかった」→「その映画をやっと観た」というときに「遅まきながら、今、話題の映画を観た」という風に使います。
この「遅い」というのは、主観的な判断でかまいません。
先の例でいうと、封切りされた翌日にその映画を観たとしても、話し手が「本当なら封切り前の先行上映で観ておくべきだった」と考えていたとしたら、「遅まきながら、やっと観た」と言っても、まったく誤りではありません。
逆に言うと、「遅まきながら」とつけることによって、話し手の「もっと早く〜すべきだった」という気持ちが、言外に表現されることになるのです。
ここで気を付けておかなければならないのは、「遅まきながら」は他人の行為・行動については使わないということです。
小説など、三人称で書かれている文章でも、基本的に視点人物や主人公の動作に使われます。
「遅まきながらお礼申し上げます」とは言えても「遅まきながらお祝い申し上げます」とは言わないことに注意してください。
「遅まきながら」を使った例文・短文(解釈)
- 例文1
- 例文2
- 例文3
例文1
「前半戦はいいところがなかったチームだったが、後半戦になってやっと、遅まきながらも反撃を開始した」
解釈:この文章の語り手は、話に出てくる「チーム」を中心に試合を見ています。
前半はいいところがなかった、出遅れてしまった、でも、後半になってやっと反撃しようとしている、という前半と後半のコントラストと、「やっと」という気持ちが「遅まきながら」という言葉の中に表現されています。
例文2
「彼は私ではなく、A子を待っていたことに、遅まきながら気がついた」
解釈:この文章からわかることは、最初「私」は、「彼」が「私」を待ってくれていたものだとばかり思っていたことがわかります。
そうではなかったことに、途中で気がついたのです。
なんでもっと早く気がつかなかったのだろう、という気持ちが「遅まきながら」の中にこめられています。
例文3
「先生がどれだけ私たちのことを考えてくださっていたか、遅まきながら思い至り、どうしてこれまで気づかなかったのだと情けなく感じました」
解釈:この文章の語り手は、これまで「先生」の真意に気がつかなかったのが、今になってわかったのです。
「遅まきながら」という言葉の中に、もっと早くきづかなければならなかった、という反省と後悔の気持ちがうかがえます。
「遅まきながら」の英語と解釈
直接的な表現ではないですが、「ちょっと遅くなったけれども〜する」という形で英訳するのが一番日本語の意味に近いです。
たとえば「遅まきながらお手伝いいたします」と言いたいときは“I know it's rather late, but I'll help you. ”(ちょっと遅くなったのはわかっているのだけれど、お手伝いします)
そのほかにも“belatedly”を使うこともできます。
ただ、遅れてしまったというニュアンスが強く、場合によっては「間に合わない」という意味になることもあります。
“Then, belatedly, I realized what she meant. ”(そのとき、私は遅まきながら、彼女が言ったことの意味に気がついた)
“I made a belated apology. ”(遅まきながら謝罪した、文脈によっては「謝罪したが手遅れだった」という意味になることも)
「遅まきながら」の類語や類義表現
- 「遅ればせながら」
- 「遅くなりましたが」
「遅ればせながら」
「遅まきながら」とよく似た言葉に、「遅ればせながら」という言葉があります。
こちらは「遅れ馳せながら」とも書きます。
つまり、「遅れて馳せ参じる」ということなのです。
「馳せ参じる」というと、少し古めかしい響きがありますが、古語の「馳せ参ず」がそのまま現代に残っているのです。
「馳せ参ず」とは、「馬を走らせて参上する」から転じて「大急ぎで参上する」ということです。
平安末期から鎌倉時代の御家人が、何かが起これば大急ぎで棟梁(統率者・主君)の下に駆けつける様子を表す言葉です。
棟梁の下に駆けつけるのが早ければ早いほど、忠義の念が強いとされていました。
ところが、人によっては駆けつけるのが遅くなってしまう場合もあります。
みんなから遅れてやってくることは「遅れ馳(ば)せ」と呼ばれるようになりました。
遅くなってしまったと、自分の行動を恐縮して言うとき「遅ればせながら」と言うようになったのです。
従って今でも他人の行為に対するときは、×「遅まきながら」ではなく、「遅ればせながら」を使います。
人より遅くなって申し訳ない、という気持ちがこめられている表現だからです。
「遅くなりましたが」
古めかしい「遅まきながら」という言葉より、「少し遅くなりましたが〜します」という表現の方が、今の私たちにはぴったりくるかもしれません。
ただ、この表現はシンプルな分、「遅れた」「遅くなった」ということを言っているだけで、「遅まきながら」という「もっと早くすればよかった」「やっと始めることができた」というニュアンスは感じられません。
ここでは「遅まきながら」という言葉の意味や使い方、例文やそれに当たる英語表現を見てきました。
また類義語である「遅ればせながら」という言葉との使い方の違いも見てきました。
言葉にはそれぞれ微妙なニュアンスがこめられています。
ボキャブラリを増やすことで、相手の言葉にこめられたニュアンスを感じ取ったり、またこちらから伝えることができるようになると素敵です。