「未曾有」の意味とは?対語、対義語や英語、災害など徹底解説!
自分の知らない言葉を相手が口にしたとき、それが音的に聞き取りづらいものだったときはちょっと困ることがありますよね。
漢字の場合、会話の中でその漢字の読み方通りの発音をしないこともままあるのでやっかいです。
「高校(コウコウ)」を「コーコー」、「東京(トウキョウ)」を「トーキョー」、「お父さん(オトウサン)」を「オトーサン」、「弟(オトウト)」を「オトート」と言ったりします。
口にする場合はそのような言い方をしても間違いではないのですが、テストなどで読み方を答える場合は間違いになります。
今日取り上げる「未曾有(未曽有)」も、人によっては「ミゾー」とか「ミゾオー」、「ミゾウウ」などと聞こえたりするかもしれません。
「未曾有」の場合、本来は「ミゾウウ」という読み方が正しかったのですが、現在では「ミゾウ」と短縮化された言い方が一般的になりつつあります。
言葉は変化しながら生きているので、注意を払う必要がありそうです。
そこで、「未曾有」の正しい読み方から意味、語源、類語などをまとめてみました。
目次
- 「未曾有」の意味とは?
- 「未曾有」の類語や言い換え
- 「未曾有」の対義語
- 「未曾有」を使った例文や使い方
- 「未曾有」の語源
- 「未曾有の災害」とはどんな災害?
- 「未曾有」に関する英語
「未曾有」の意味とは?
「未曾有」には読み方や書き方が二通りあります。
詳しく見ていきましょう。
- 「未曾有」の読み方
- 「未曾有」のもう一つ書き方
- 「未曽有」の意味
「未曾有」の読み方
「未曾有」は、「ミゾウ」と「ミゾウウ」という二つの読み方があります。
本来は「ミゾウウ」と読んでいたものが約まって「ミゾウ」と読まれています。
同じような例として、「ユイイツ」あるいは「ユイツ」と読まれている「唯一」があります。
「未曾有」の場合も、「ミゾウ」、「ミゾウウ」どちらで読んでもかまいません。
「未曾有」のもう一つ書き方
「未曾有」は、「未曽有」と書くこともあります。
「曾」の字は旧字体で、2010年以降、常用漢字に「曽」がくわえられたことによって「未曽有」の表記が目立ちますが、どちらも間違いではありません。
ただ漢検(日本漢字能力検定)の2〜10級の試験においては「常用漢字表」の字で書かなければ不正解となるので注意が必要です。
この記事では「未曾有」の字で統一したいと思います。
「未曽有」の意味
「未曾有」には次のような二つの意味があります。
- 「未(いま)だ曾(かつ)て有らず」の意。
昔から今までに、一度もないこと。
この上なくめずらしいこと。
- 菩薩(ぼさつ)による奇跡や功徳を記した十二分経(じゅうにぶんきょう)の一つ。
(こちらの場合、未曾有と書いて「ミゾウ」と読むのが正しいようです)
この記事では「未(いま)だ曾(かつ)て有らず」の「未曾有」について述べていきます。
「未曾有」の類語や言い換え
「未曾有」の類語を集めてみました。
- 「空前(くうぜん)」
- 「前代未聞(ぜんだいみもん)」
- 「画期的(かっきてき)」
「空前(くうぜん)」
意味は「今までに例がないこと」となります。
「空前の快挙に一同狂喜した」
辞書をみると、「空前」の意味の中には、上記の意味以外に「未曾有」の言葉も意味として書かれています。
ということは「空前」が使われる文章においては、「空前」のかわりに「未曾有」が使えるということでしょうか。
必ずしもそうではありません。
「いまだかつてなかったこと」のなかには、いいことも悪いこともあります。
いまだかつてないほどの大規模な自然の災害が発生する場合もあれば、誰も成し遂げたことのないような偉業を誰かが行うこともあります。
「未曾有」の場合、決まりがあるわけではありませんが、一般的に、「未曾有の被害をもたらした」とか「未曾有の惨事が起きた」といったように、どちらかというと悪い状況において使用されることが多いようです。
一方、「空前」の場合は、「空前の大勝利」や「空前の損失」といった使い方からもわかるように、いいことも悪いこともどちらにおいてもよく使われるようです。
「前代未聞(ぜんだいみもん)」
「今までに聞いたこともないめずらしいこと」「程度がはなはだしく大変なこと」といった意味があります。
「前代未聞の珍事件」
「前代未聞」の場合、「未曾有」や「空前」と同じく「過去になかったこと」の意味がありますが、そこには、「奇抜」や「型破り」、「大それたもの」や「破天荒」、「あっと驚くような」といったニュアンスが含まれています。
ですから、結婚する二人を祝福しようとして、「かつてないほどのきずなで結ばれた二人になりますように」のつもりで、「前代未聞のカップルになってください」といえば顰蹙を買ってしまうかもしれません。
こう書くと「前代未聞」はあまりいい意味で用いられない言葉のように思われるかもしれませんが、これが音楽や美術といった芸術、あるいはスポーツに関する場面で使われるときには誉め言葉になります。
【例文】
「彼という人間も、彼の作る曲も、その人気も、まったくもって前代未聞だ」
「9回裏、前代未聞の大逆転劇が起きた」
「画期的(かっきてき)」
「新時代・新分野を開くほど斬新で優れているさま」、「新時代の到来を思わせるようなめざましい印象を与えるさま」、「エポックメーキング」といった意味があります。
わかりやすく言うと、これまでになかったような、新しい時代の到来を思わせる、時代を区分するような物事について使われる言葉です。
【例文】
「飛行機の発明はまさに画期的だった。人類はついに空を飛んだ。誰もが新しい時代の幕開けを予感した。」
「未曾有」がどちらかというと悪い状態や出来事について使われるのに対して、こちらは良い意味でつかわれることが多いです。
「未曾有」の対義語
「未曾有」の対義語は何でしょうか。
その前に、対義語とは何でしょうか。
対義語とは、「表」と「裏」、「始め」と「終わり」、「泣く」と「笑う」みたいな対(ペア)になるようなかたちで存在する、「何らかの意味で対立する意味をもった二つの語のそれぞれ」です。
この定義に沿って考えると、「未曾有」の対義語は存在しません。
「未曾有」には、「昔から今までに、一度もないこと。
この上なくめずらしいこと」という意味がありました。
この反対の意味を考えると、「昔も今も変わらない、ありふれたこと。
めずらしくないこと」になります。
そのような意味を持つ言葉であれば、たとえば、「ありふれていて特別なところのないこと。
また、そのさま」を意味する「平凡」があります。
しかし、「平凡」には「非凡」という対義語が存在し、「未曾有」の対義語ではありません。
反対の意味の内容を持っているように思われても対義語でないものはたくさんあります。
たとえば、「朝」の対義語は「晩」か「夕」で、「夜」ではありません。
「未曾有」を使った例文や使い方
「未曾有」の使われ方を、例文を通してみてみたいと思います。
- 「2011年3月11日に発生した宮城県沖を震源とする地震は未曾有の大震災となった」
- 「大陸から来た寒気の影響で未曾有の大雪となった」
- 「原発事故は未曾有の環境破壊をもたらした」
- 「未曾有の暑い夏をエアコンなしで過ごした」
- 「高齢者人口は今後も増える見込みであり、老老介護や認認介護の問題は未曾有の危機をむかえつつある」
「未曾有」という言葉は、「未曾有の大勝利」などという言い方があるものの、先にも述べたように、どちらかというとあまりよくない事態や状況の時に使われることが多いです。
この言葉をよく目(耳)にするのも、災害や事件、事故を伝えるニュースなどが多いと思います。
「天災は忘れたころにやってくる」という言葉を思い出させるような場面が多く、それはあらためて危機意識を持つことの大切さを再認識させられる場面でもあります。
「未曾有」の語源
「未曾有」は、もともとサンスクリット語「adbhuta(アドゥブタ)」という、仏の神秘や功徳の尊さ讃嘆する意味の仏教用語が漢訳されたものです。
日本では、これを「未(いま)だ曾(かつ)て有(あ)らず」と訓読していました。
「曾」には、「これまでに」、「かつて」、「以前に」、「かさな(ね)る」といった意味があります。
「いまだかつて一度もない、この上なくめずらしいこと」という意味を持つ「未曾有」は、本来はいい意味で使われていた言葉ですが、鎌倉時代にはいい意味でも、悪い意味でも、どちらの場面で使われるようになり、現代においては「未曾有の大災害」などのように、よくない状況において使われることが多くなりました。
「未曾有の災害」とはどんな災害?
「災害」は、自然現象や人為的な原因によって人や社会が受ける思わぬ被害です。
自然現象を原因とするもののなかには、洪水や積雪、地震、干ばつ、台風、津波、火山の噴火などがあり、人為的なものを原因とするもののなかには、テロや戦争、原子力事故などがあります。
こうした「災害」のなかでも、かつてないほどの規模のものが発生した場合に「未曾有の〜(災害名)」になります。
「災害」という場合、そこには必ず人や社会の受けたダメージが含まれています。
このため、誰も住まない地域で起きた洪水や津波は、「未曾有の洪水」や「未曾有の津波」だったとしても、「未曾有の災害」にはなりません。
「未曾有」に関する英語
「未曾有」にあたる英語には、以下のようなものをあげることができます。
・“unprecedented”(前例のない、空前の、新奇の)
【例文】:“It was an an unprecedented disaster.”(それは未曾有の災害だった)
・“record-breaking”(記録破りの、空前の)
【例文】:“Record-breaking rain caused a flood.”(記録的な雨が洪水となった)
・“unheard-of”(これまで聞いたことのない、前例のない)
【例文】:“An unheard-of calamity happened.”(前代未聞の大災害が起こった)
サンスクリット語の「adbhuta(アドゥブタ)」という仏教用語が漢訳された「未曾有」。
「いまだかつて一度もない、この上なくめずらしいこと」というその意味は、もともとはいい意味で使われるものでした。
それが時代とともに変化し、現在はでは「未曾有の大災害」などのように、悪い出来事において使われるようになりました。
災害には自然現象だけでなく、人為的なものも要因で起こることがあります。
人間が自ら引き起こす災害が「未曾有」になっては、この言葉が本来持っていた言葉の意味を考えるとあまりに皮肉な結果になります。
そうならないために自分にできることは何か、「未曾有」についての記事を書きながらあらためて考えさせられました。