「齟齬」の意味とは?類語、使い方や例文、対義語を紹介!
「齟齬を来す」とか「齟齬があるようだ」といった言葉はあまり日常で耳にすることはありません。
もしもそれが頻繁に耳に入ってくるようならば、あなたか、あるいは周囲の人間関係がうまく回っていないことになるからです。
人が人とかかわっていくなかで、それが夫婦や親子、友達といった一対一の関係であっても、あるいは近所、学校、職場といった複数の人との係わりであっても、その関係がぎくしゃくしたものとならないためには意思の疎通といったものが大事になります。
とくに仕事などでは、あるプロジェクトを進めていって目的を達成するためには、互いの意思の疎通やチームワークといったものは必要欠くべからずなものとなります。
「齟齬をきたす」あるいは「齟齬がある」というのは、それとは反対の状態になっていることを意味しています。
今回は、人とのかかわりのなかで使われる「齟齬」という言葉を取り上げてみたいと思います。
目次
- 「齟齬」の意味とは?
- 「齟齬」の類語や言い換え
- 「齟齬」の使い方と注意点
- 「齟齬」を使った例文
- 「齟齬」の対義語
- 「齟齬」のように「歯」にかかわる言葉
「齟齬」の意味とは?
- 「齟齬」の読み方
- 「齟齬」の意味
「齟齬」の読み方
「齟齬」と書いて「そご」と読みます。
「齟」という字は、音読みで「ソ」、訓読みで「か(む)」、「くいちが(う)」という読み方があり、「齬」の字には、音読みで「ゴ」、訓読みで「くいちが(う)」という読み方があります。
「齟齬」の意味
「齟齬」には、「意見や物事が食い違って合わないこと」の意味があります。
「齟齬」の「齟」と「齬」のどちらも訓読みで「くいちが(う)」という読み方があるように、「齟」という字には、「かむ、かみ砕く」、「上下の歯がよくかみあわない」、「食い違う」の意味があり、「齬」という字にも、「食い違う、かみ合わない」の意味があります。
この二つの字が合わさった「齟齬」には「上と下の歯が食い違う」の意味があり、そこから転じて、「意見や物事が食い違って合わないこと」という意味を持っています。
「齟齬が生じる」とか「齟齬を来す」といったとき、そこには双方の間に何らかの「認識の食い違い」があり、それによって物事が思うように運ばれていない状態を指しています。
しかし、この「食い違い」については注意が必要で、どちらかが事実とは違う解釈をしてしまっている場合を表す言葉としては「誤解」がありますが、「齟齬」の場合は、本来なら(意見なり行動なりを)一致してすべきところをそうしない状態を指して言うところに「誤解」との違いがあります。
「齟齬」の類語や言い換え
- 「行(ゆ)き違い」
- 「ずれ」
- 「矛盾」
- 「不調和」
- 「相反する」
「行(ゆ)き違い」
「いきちがい」という読み方は、「ゆきちがい」の口語的表現になります。
意味:
- 会えるはずの両者が途中で会えずにすれ違うこと。不成立におわること。
- 誤解や食い違いが生じること。
2の意味としての「行き違い」が「齟齬」の類語となります。
例文:「ほんの小さなことがもとで感情の行き違いが起こってしまった」
「話し合いは長時間に及んだが行き違いに終わった」
「ずれ」
意味:
- 所定の位置から少しはずれた状態になること。
- ある基準や標準から離れて、正しくない状態になること(広義では。何らかの点で両者が食い違うことも含む)。
2の意味としての「ずれ」が「齟齬」の類義語になります。
例文:「論点がずれていて、話がかみ合わない」
「矛盾」
意味:前に言ったことと、後に言ったことのつじつまがあわないこと。
言動や物事の道理が一貫していないこと。
例文:「弁護士は検察側の証人の矛盾を指摘した」
「不調和」
意味:周りと調和しないこと。
つりあっていないこと。
また、そのさま。
例文:「悲しみに沈んだ人々が集まった会場で、突然、不調和な笑い声が響いた」
「相反する」
意味:相容れない関係がある。
一致しない。
反対、あるいは対立、および対照的な関係が認められる。
例文:「核保有の是非について、A国とB国は互いに相反する考えをもっている」
「齟齬」の使い方と注意点
「齟齬」という言葉は、「食い違い」や「かみ合わない」場合ならいつでも使えるかというとそうではなく、使う際には注意しなければならない点がいくつかあります。
- 「齟齬」の使い方と注意点
- 「齟齬」という言葉が使われる場面とは?
- 「齟齬」の持つニュアンスとは?
「齟齬」の使い方と注意点
「齟齬」には、「意見や物事が食い違って合わないこと」という意味がありますが、必ずしも反対の意見や立場をとる相手や状態に対して使われるわけではありません。
たとえば菜食主義者の人が、肉を食べる人と意見の対立をみせたからといって、「両者の間には齟齬がある」とはいいません。
また、前述の「2-3」の「矛盾」の例文(「弁護士は検察側の証人の矛盾を指摘した」)を見て下さい。
「矛盾」には、「話の内容が前と後で食い違う」といった意味がありますが、「矛盾」の例文に「齟齬」は使えません。
では、具体的にどういった場面で使われるかというと、「齟齬」という字の持つ意味がそのヒントになります。
「齟齬」という言葉が使われる場面とは?
「齟」も「齬」も、どちらも「上と下の歯が食い違う」の意味を持っていますが、これは本来なら食事での食べる行為や栄養をとる目的においてかみ合うべき(一致すべき)上下の歯が、そうはならない(うまくかみ合わない)という意味を持っています。
この「本来ならそうあるべき」というところが「齟齬」を使い分けるポイントになります。
先の「菜食主義者」の例であるならば、肉を食べる人と、菜食主義者では、初めから肉を食べるかどうかについて主義主張が違うので、互いに意見の対立をみせたからといって「見解の相違がある」とは言っても、両者の間に「齟齬がある」とは言いません。
また、菜食主義の人もそうでない人も、それぞれの道を行くことに不都合は生じません。
「齟齬」という言葉はどのような場面で使われるのか、次の例文を見て下さい。
(例文):「メーカー側と販売店側で、商品を提供する際のサービスの内容に齟齬があり、売り上げに大きな影響が出た」
メーカーも、メーカーが作った商品を現場で売る販売店も、どちらも本来なら商品を売って儲けるという同じ目的で存在しているはずのものが意見や行動に食い違いが生じたときに「齟齬が生まれる」と言います。
また、「齟齬が生まれる」というときには、単に「食い違いが生じる」だけではなく、そのことによって話や事がうまく進んでいかないニュアンスがあります。
「齟齬」には、他にも、今述べた以外のニュアンスが含まれています。
「齟齬」の持つニュアンスとは?
「齟齬」の「上の歯と下の歯が食い違う」の、「上の歯」も「下の歯」も、どちらか一方が悪いわけではなく、上の歯も、下の歯にも、どちらにも原因があることを意味しています。
このため、意見の相違や誤解があったことを「齟齬」という言葉に置き換えて使うと、相手が上司や顧客だった場合には失礼になる場合があります。
たとえば、「お互いの間に〇〇について、認識の齟齬があったようなので〜」と言うと、自分だけでなく、相手にも改めるべき非のあることを意味することになってしまうのです。
「齟齬」という言葉は、通常、自分と相手(聞き手)との間ではあまり使われず、第三者的な立場で「食い違い」について客観的に言う場合に使われるのが一般的です。
(たとえば、お互いの間にぎくしゃくしたものがあったとしても、「わたしとあなたの間には齟齬がある」といったような使われ方は普通はしません)
もしもお互いの認識の不一致について指摘し、話し合いの場をもちたいと提案するような場合には、「お互いの間に〇〇についての認識の齟齬があったようなので〜」の「認識の齟齬」という部分は、「認識の相違」あるいは「認識の違い」といった言い方に言い換えると無難です。
ところで、「齟齬」の代わりに使った「相違」という言葉には、「何かと何かを比べてみたときに、そこに違いがあること。
互いに異なっていること」といった意味があります。
「齟齬」と「相違」の違いですが、「相違」は両者の違いそのもの(事実)を指していますが、「齟齬」は両者の間において本来なら同じ考えなり立場なりであっていいはずのものが違っていた時に使われます。
たとえば、「見解の相違」と「見解の齟齬」といった場合、前者は単に二つのものを比べたときに違いがあることそのものを言い、後者は本来は同じ見方をしていてしかるべきものが違っていた場合に使われます。
「相違」には違いそのもの(事実)を指して使えるので、「齟齬」の代わりに使うことも可能です。
「齟齬」を使った例文
「齟齬」には齟齬の使い方で述べたように、(本来なら上下の歯のようによくかみ合ってしかるべきものが)かみ合っていない、そしてそのために物事が円滑に進まなくなっている状態を指しています。
以下の例文からもそのニュアンスがわかるのではないでしょうか。
- 「齟齬」の例文1
- 「齟齬」の例文2
- 「齟齬」の例文3
- 「齟齬」の例文4
- 「齟齬」の例文5
「齟齬」の例文1
「工事の進め方について、現場にたまにしか顔を出さない監督と現場の者との間に齟齬が生じてしまった」
「齟齬」の例文2
「両国の間に横たわる齟齬は、互いの歴史認識の違いに起因しているものと思われる」
「齟齬」の例文3
「事務所の社長とバンドのメンバーたちは、今後の音楽活動をめぐって齟齬を来した」
「齟齬」の例文4
「遺産をめぐって兄と弟の主張に齟齬があるため、両者の間に弁護士を置くことになった」
「齟齬」の例文5
「あいまいな表現があったため計画が齟齬する」
例文からもわかるように、「齟齬」が使われるのは、第三者的な立場で「食い違い」について客観的に言う場合に使われるのが一般的です。
「齟齬」の対義語
- 「符号(ふごう)」
- その他の反対語
「符号(ふごう)」
「齟齬」の対義語は「符号」です。
「符合」には、「二つ以上の事柄がぴったり合うこと。
一致すること」という意味があります。
符合の例文:「後から重要な証拠がいくつも出てきて、彼の話と事実とが符合することが確認された」
その他の反対語
他に、「齟齬」とは反対の意味をもつものとして、「一致」、「疎通」、「合致」などが挙げられます。
例1
「一致」の意味二つ以上のものが食い違うことなく一つになること。同じであること。ぴったり合うこと。
例文:「いつも、ほんのちょっとしたことで口論に発展するというのに、そのときはめずらしく、ぼくたちは意見の一致をみた」
「彼女が恐る恐る足を差し入れると、足は見事にその靴と一致した。
彼女が王子の探していた女性だった」
例2
「疎通」の意味両者の考えが互いに通じ合い、わからない点や誤解などのないこと。
例文:「分かって当たり前じゃなく、時には言葉を尽くして意思の疎通をはかるってのが大事だよね」
例3
「合致」の意味一致すること。ぴったり合うこと。
例文:「ツアーコンダクターになったのは、世界中を旅してみたいという子供のころからの希望と合致したからだった」
例4
「一致」と「合致」の違いは?
「一致」も「合致」も「ぴったり合うこと」の意味があり、意味としてはほぼ同じですが、使い分けがあります。
「一致」と「合致」の例文をもう一度見て下さい。
「一致」の例文の、「彼女が恐る恐る足を差し入れると、足は見事にその靴と一致した。
彼女が王子の探していた女性だった」の「一致」の部分を「合致」に置き換えると違和感を感じませんか。
逆に、「合致」の例文の、「ツアーコンダクターになったのは、世界中を旅してみたいという子供のころからの希望と合致したからだった」はどうでしょうか。
この例文のなかの「合致」に「一致」を置き換えたとしても違和感がありません。
それは、「合致」という言葉は「希望」や「趣旨」、「目的」などといったような抽象的なものについて使われる性質を持ち、それに対し「一致」のほうは、抽象的なことだけでなく具体的なことにまで使われる言葉だからです。
このため、同じ「ぴったり合う」ことでも、一致のほうが広い範囲を扱っているので、「合致」が使われている文章において「一致」を使うことができても、「一致」が使われている文章に「合致」が使えるとは限らないことに注意しなければなりません。
「齟齬」のように「歯」にかかわる言葉
「齟齬」の「齟」も「齬」も歯偏(はへん)からなる漢字で、「かむ」、「かみ合わない」という「歯」に係わる意味を持っています。
そこで、「歯」が使われている言い回しをいくつか取り上げてみたいと思います。
- 「歯が立たない」
- 「歯に衣(きぬ)着せぬ」
- 「歯が浮く」
「歯が立たない」
意味強すぎて対抗できない。
難しすぎて処理できない。
例文:「相手が横綱では歯が立たない」、「とても歯が立たない難問を抱え込んでしまう」
「歯に衣(きぬ)着せぬ」
意味思ったことを遠慮なくずけずけ言う。
例文:「その評論家は歯に衣着せぬ物言いで大衆から支持された」
「歯が浮く」
意味きざでそらぞらしい言動に対して不快に感じる。
例文:「彼は女と見れば誰でも歯の浮くようなお世辞を言う」
「齟齬」には、「意見や物事が食い違って合わないこと」の意味があります。
単に、考え方や行動の「違い」だけを指しているわけでなく、本来一致してしかるべき考え方や行動において一致が見られず、物事がうまく進んでいないときに使われます。
また、「食い違い」や「かみ合わない」原因がどちらか一方にあるというよりも、双方(上下の歯)にあるというニュアンスがあるため、使い方には注意が必要です。
特にビジネスなどの現場では、相手との間に意見の相違があったときに、それを「齟齬がある」と相手にむかって表現すると、相手にも非があるような言い方になってしまうので避けなければなりません。
相手との間に意見や認識の不一致を感じ、それを指摘したいときには、「齟齬」ではない言い方――「認識の違い」、「意見の相違」等――で言い換えることができます。
このような言葉の配慮も、齟齬を来さないために大切なことです。